はじめに
希薄な自然エネルギーを化石エネルギーにかわって利用する有効な手法を模索してきました。2050年のカーボンニュートラルのすがたは、まだ不透明で予測できるような状況ではありません。実効性のある最適解をもとめて議論を深めるときです。これまで、地球環境保全にあたってはグローバルに考えローカルに行動することが基本姿勢とされてきましたが、今日では、逆にローカルに考えグローバルに行動することが重視されています。温暖化ガスの排出抑制への実践的な対処はコストの低減と環境保全の二つにしぼられます。大規模な装置産業に依存する化石エネルギー利用にかわって、変動が激しく、あつかいにくく、ローカルなエネルギーを安価に、環境を乱さずに収集、利用することにあります。
そこで、地球環境保全トラスト株式会社では親会社(日本アルテック)のあります滋賀県竜王町をモデルとして、再生可能エネルギーの開発促進計画をまとめてみました。これまで、コストの低減のためにスケールメリットが優先され、草根からの調査活動が軽視されてきたこと反省し、開発にあたっては異なった適地もつ自然エネルギーを開発、組み合わせ、バランスさせております。この構想が地域における合意形成と実践につながることを願っております。
I 竜王町とCO2排出削減目標
Iー1 竜王町
竜王町は「若者も暮らしたい 希望かなえる 輝竜の郷」の実現に向けて、まちづくりがすすめられています。滋賀県でもっとも幸福度の高い街としても知られています。日本三大和牛のひとつ、“近江牛”の発祥の地であり、水田からは良質の「近江米」が生産され、広大な果樹園では四季折々のフルーツが収穫されています。一方、町の西部および南部は近代的な工業団地、大型ショピングモールなどからなり、滋賀県の交通、産業の要の一部を形成しています。人口12,000人、世帯数4,400で、面積は45km2です。竜王町の町づくりは第六次竜王町総合計画(2021)のもとに、バイオマス産業都市構想、農業振興ビジョン(2023)がすすめられ、現在第2次環境基本計画が作成中です。
I-2 竜王町の地形と地質
竜王町は、琵琶湖の東に広がる近江盆地の一部をなし、町は平地、丘陵、山地の三つの地域に分けられます。かつて、琵琶湖は現在よりも南西の阿山(あやま)・甲賀湖や蒲生沼沢地にあったと推察されています。竜王町の平地 (蒲生沼沢地)は古琵琶湖層の一部で、200万年ほど前に堆積した粘土や砂などから形成されています。現在では堰(せき)や用水路がぎっしりしきつめられ、水田稲作農地になっています。丘陵地も古琵琶湖層ですが、平地より少し古い地層です。今日では、ここにハイテク産業や商業を中心にした街につくられ、拡大をつづけています。山地は中生代の花崗岩で、森林になっています。つぎに、ハザードマップを見ますと、町の北部が土石流やがけ崩れなどの危険が高くなっています。地震については南北方向の活断層が報告されていますが、とくに警戒が必要な断層にはなっていません。
I-3 コンパクトシティ化構想
竜王町では30 年後の姿を想定し、コンパクトシティ化構想がすすめられています。4つの地域(市街、生活、田圃、森林) とつの拠点(中心核、広域商業、産業、観光・交通、交通結節、新生活)が設定され、それらを道路網で結び機能性を高めています。すでに述べました三つのゾーン(平地、丘陵、山地)からなる画像にこの将来構想図を重ねますと、平地のゾーンには歴史的な灌漑水稲と生活拠点が、丘陵の古琵琶湖層には近代的な工業団地、大型ショピングモール、新しい住宅街などが、山地は花崗岩からなり、松を中心にした森林になっています。一般に花崗岩地帯は深層風化が起こりやすく、しばしば荒廃地を形成します。40年前の画像ではいくつもの崩壊地が目立っています。行政(中心核)は平地中央に、畜産業は丘陵の南東部に位置しています。それぞれの地域の歴史、地史とがうまくかみあっているのがわかります。
再生可能エネルギー創出にあたっては、この構想にそって展開することが肝要です。
I-4 竜王町のCO2排出量
最近の2020年の竜王町のCO2排出量は下表のようになっています。産業部門が85%をしめ、37.5万t-CO2です。そのうちの製造業(工場など)が83%(全国平均の3倍)となっています。製造業が突出して高いことがこの町の特質です。これは南西部にある大規模な自動車をはじめとする近代的工場群よるものです。この影響を反映して、竜王町は夜間にくらべて昼間の人口が5000人も多くなっています。また滋賀県のなかでもっとも男性の比率が高くなっています。製造業以外のCO2排出量は、業務部門が5%、家庭部門は3%です。運輸部門は、ガソリンや灯油などを中心に7%排出されています。つぎに、一人当たりのCO2排出量を換算しますと、竜王町の2020年の人口は1.18万人ですからCO2排出量は32t-CO2 /人になります。これは日本の平均値に比べ4倍も高くなっています。政府基準年の2013年とくらべますと、CO2排出量算定はと20万t-CO2も減少しています。
これらの統計は環境省の自治体排出量カルテによるものですが、他にも竜王町のCO2排出量について②地域E-CO2ライブラリーVer.5.1、⓷滋賀県による算出データ(竜王町環境基本計画)いずれのデータも2013年の基準年から現在(2020年)までの間に排出量が大きく減少しているのがわかります。たとえば自治体排出量カルテでは35%も少なくなっています。エネルギー効率、電力排出係数要因などの変化によるものと推察されます。ところが、2020年の排出量合計は自治体排出量カルテと他の二者の間におおきな差があります。吟味が必要です。
本計画では自治体排出量カルテの統計を採用しております。
I-5 CO2排出削減目標の設定
わが国の産業部門別CO2排出量は下図の通りです。エネルギー転換部門(発電所・製油所)を除きますと多量にCO2を排出しているのは 産業部門(工場など)です。政府は、排出量の多い、自動車や鉄鋼、化学などの製造業をとくべつに扱いにし、独自に大幅な温暖化ガス削減計画「製造業GX(グリーントランスフォーメーション)」をすすめ、サポートしています。いずれの産業分野でも、原点に戻って素材から製品・消費に至るプロセスを社会的、経済的、工学的にグローバルな視点から見なおし、大幅な温暖化ガス削減につなごうとしています。たとえば、電気自動車の開発・普及や輸送システム、高炉を必要としない製鉄法などがあります。たとえば竜王町にありますダイハツ滋賀(竜王)では省エネ、革新技術開発、再エネを三つの柱にしてCO2排出をネットゼロ(2050年の努力目標)、を2035年までに達成する計画が立てられ、進行しています。
このようなことから、竜王町の温暖化ガスの総排出量から産業部門を除き、竜王町の当面のCO2排出削減目標を製造業を除いた6.5万t-CO2として検討いたしました。
Iー6 竜王町の再生可能エネルギーの推移
政府が開発・普及をとくに推奨しています再生可能エネルギーは5つあります。太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスです。再生可能エネルギーにはほかにも潮力発電や温度差発電などもありますが、実効性が小さいとして除かれています。
竜王町に限って、これら5つの再生可能エネルギーの開発状況をしらべますと、太陽光発電とバイオマスが有望です。いずれも限られた期間内に開発可能で、一定の発電量が期待できます。しかし、強い風が吹いているところや高温のマグマが地表近くにまで上昇してきているところは知られていませんので、風力発電や地熱発電の適地はありません。もう一つの小型水力発電については、適当な水量と落差をもった、有望な河川は見あたりませんが、自然水だけでなく揚水を組み合あわせてかんがえますと適地がいくつか存在します。しかしながら、この小型混合水力発電は水力発電の一種に分類できますが、前例がないことから政府の固定価格買取制度の小型水力発電からは除かれています。ところが、混合水力発電は蓄電池としての機能をそなえておりますので、電力の均一化および防災にも両方に役立ち、今日もっとも開発がいそがれている装置の一つです。そこで混合水力発電の詳細については具体的な場所を設定しあらたに項目を設け後述しています。
竜王町の再生可能エネルギーの推移をみますと、記載があるのは太陽発電のみで、2021年では25.6×109Wh、総電力供給545×109Whの5%となっています。
I-7 CO2排出削減ロードマップ
竜王町の2013年の総CO2排出量は576,000 t-CO2です。製造業からの排出量を除きますと74,000t- CO2になります。したがって、2030年にはその54%、40,000t- CO2 、2050年には0%、74,000t- CO2が削減目標になります。しかし、すでに触れましたように、2020年の竜王町のCO2総排出量は376,000 t- CO2にまで大きく減少しております。この統計データを基にしますと2030年までに25,000t- CO2を、2050年までに65,000t- CO2を再生エネルギーと省エネルギーでまかなう必要があります。省エネルギーについては詳しい資料が見当たりませんので、2020年以降の省エネルギーは2030年までに10%(6,500 t- CO2) を、2050年には20%(13,000 t- CO2)と仮定しております。
(※なお、発電電力量1kWhあたりのCO2削減効果=541.5g- CO2 /kWhとしています。)
II 竜王町にねむる再生可能エネルギー
II-1 竜王町における再生可能エネルギー促進ゾーン
カーボンニュートラル竜王モデルの作成にあたって、再生可能エネルギーとして太陽光発電、バイオマス、混合水力発電をとりあげました。太陽光発電はすでに一部で開発されており、バイオマスは具体的な計画が進行しています。混合水力発電は有望な開発候補地が2か以上見つかっています。今後も太陽光発電を中核に再生可能エネルギーの発電量が飛躍的に増大するものと期待されます。しかし、当然のことながら、制約もあります。そこで、まず自然地理的な視点に注目して再生可能エネルギーの促進ゾーンを、三つ選定しました。太陽光発電、バイオマス、農耕公園エリアにゾーニングです。一方、逆に、再生可能エネルギーの開発を避けるべき地域として、景観の破壊、土地利用制度と歴史などの視点から農耕促進ゾーン、万葉・歴史エリア、鏡の里エリアを設定しました。また、竜王町コンパクトシティ化構想・竜王町グランドデザイン構想において検討されている町の中心核エリアは別格といたしました。
II-2 再生可能エネルギー促進ゾーンにおける太陽光発電
(1) 既設メガソーラー発電
竜王町の既設ソーラーをしらべますと、工業団地、大型ショピングモール、新しい住宅街などに分布しています。タイプは地表型および屋根型が多く、大半は古琵琶湖層の丘陵で災害の危険も低く、環境保全に障害がなければ太陽発光電の適地と判断されます。同じ条件をもった周辺地域(甲賀市(三重県) など)にはすでに竜王町以上に密にメガソーラー発電所が建設されています。竜王町はまだ余裕がります。
(2) 再生可能エネルギー促進地域の自然地理
再生可能エネルギー促進ゾーンは南西部の花崗岩(田上花崗岩)と古琵琶湖層の丘陵に形成されています。ひと昔前の画像を見ますと山崩れや荒廃地が広がっていたのがわかります。今日では工場誘致、果樹園、牧草地、植林などが盛んで、昔とはことなり、森林と工場群、商業地域、新生活域、耕畜連携地域になっています。第六次竜王町総合計画では2050年に向けてさらに進展を図る地域となっています。再生可能エネルギー開発はこの構想になじみ、共生しています。後述しますが、ここには、①.タイプをことにする太陽光発電(地表型、水上型、屋根型(工場、住宅)、営農型、駐車場型)、②バイオマス、③混合水発電が有望です。コンパクトシティ化構想の中心核にとくに必要とする防災に役立ちます。保存ゾーンは農耕地域が主体です。農林公園の小高い丘の上から眺望しますと、緑豊かな田園風景がつらなる地域で、琵琶湖を隔てて比良連峰へとつながっています。
(3) 地表型メガソーラーと景観保全
竜王町には丘陵地帯から山地にかけて多くのメガソーラー建設候補地が存在しています。メガソーラでは広い敷地に多数の無機質なパネルをならべますので、しばしばトラブルが発生しています。十分な強度があれば屋根型にするとあらたな場所も不要で問題になることはほとんどありませんが、地表型になりますと緑化、防災などの対策を組み込み計画の初期段階から検討が必要です。しかし、候補地ごとに条件はことなり、近隣の人々が温暖化ガス削減への貢献と見なれない光景をどのようにバランスさせるかが重要なポイントです。里山にすきまなくしきつめられたパネルでは自然になじみませんが、四国越知町立 横倉山自然の森博物館(安藤忠雄建築)ではモダンでいて周囲の自然と美しく調和する博物館が里山に建設されています。自然とともに、人間とともに、世の中にいきていくことがモットーなっています。参考にすべき事例かと思います。
(4) 竜王町における水上型太陽光発電
竜王町には災害防止のために29個の沈砂池ができています。これら池は通常、山のすそ野にあり水上型太陽光発電の適地が多く含まれています。比較的歴史の浅いものも多く、生態系や環境への影響も小さいとおもわれます。したがって、水上型太陽光発電と適地となってなっている池が多数存在すると考えられます。個々の意見ついて検討が必要となっています。
(5) 竜王町における営農型太陽光発電と駐車場型太陽光発電
竜王町には大駐車いくつも存在しています。これら駐車場はメガソーラーの適地です。各地のショッピングセンターや車庫までさまざな屋根型ソーラーシェアリングが設置されています。また営農型太陽光発電とよばれ、農地に支柱を立て、上部の空間に太陽光発電を下部で営農を続ける営農型ソーラーシェアリングも普及してきたいます。作物は種類を問いませんが野菜類、観賞用植物、果物などが主体で、竜王町では南部丘陵地が候補地です。
III 竜王町におけるバイオマス
(1) 木質バイオマス
竜王町西部に分布する山地の古い画像と現在の画像とを比較しますと、半世紀ほど前は荒れた崩壊地、災害跡池があちらこちらに広がっており、そのご工場の誘致や植林がほどこされ、町がととのえれてきたのがわかります。松や杉などの森林はすでに成長期を過ぎて保守管理の時期にはいり、間伐など山地管理が大切になっている思われます。一方、バイオマス利用の視点からは竜王町の森林面積は小さく、単独でバイオマス発電を運営するに十分なチップを集めることは困難です。小規模ディーゼル発電程度の量かと推察されます。
(2) 生物化学的ガス化発電 (近江牛の牛ふんバイオ発電)
竜王町は近江牛の発祥の地として有名で3,000頭を越える牛が飼育されています。牛の排せつ物によるバイオマス発電が、バイオガス産業都市構想のもとで農業・工業・畜産を連携させた計画が進行中です。近い将来、環境に配慮した牛ふんバイオマス発電が実現する予定です。畜産業は町の南部の里地に集中しており、市街地からは離れています。